不幸な私と幸せなあなた


※これから書くことは当時の精神状態で思ったことを書いたもので、現在では自分の中でも受け取り方が違います。


もう10年以上前にカウンセリングに通っていた。
通っていた心療内科の先生に勧められたからだ。
そのカウンセリングは医療機関には付随しておらず、マンションの一室を協働で借りて開いているものだった。
最初は45分1万円という料金の高さに二の足を踏んでいた。
ほど近く異動になり慣れないうちに仕事の失敗でパニックに陥った時に発作鄭に予約の電話を入れてしまった。
その時は藁をもすがる気持ちだった。
依存心がかなり高かった時期である。
カウンセリングに受けに行った初回に、カウンセリングがどういうものか説明された。
細かい部分は覚えてないのだが、あなたにとって楽しいことばかりではない、辛いこともあると宣言された。
されたのであるが、私の頭の中にあったカウンセリングのイメージを変えることがなかった。
「けして相手を否定しない」「患者の意見をとことん聞く」というそういった学生時代に勉強した優しく話を聞いてくれるカウンセリングのイメージを持ったままだった。
しかし、実際始まってみると(自分にとっては)『否定の連続』だった。
私の担当はけして優しい口調では話さず、終始つっけんどんな冷たい口調だった。
その口調で私が話すことを否定する。
曰く「あなたはそう思ったかもしれないけど、相手はそうは思ってはいないんじゃないの?」
曰く「あなたの思い込みだけで判断していて、客観的な根拠はないのに、なぜ断言ができるの?」
曰く「あなたがいいと思ったことでも、相手にとってはそうではなかんじゃないかしら?」
違うというのなら、何が正しいのかを問うと、カウンセラーはそれは自分で考えることだと言った。
今思うとそれは至極ごもっともな意見だ。
しかし、当時はそんな冷静な判断はできない状態だった。
その時の精神状態では『否定されているだけ』だとしか思えなかった。
当時は私は『救い』が欲しかった。
それなのに、否定ばかりされて、それから逃れられる術は教えてもらえなかった。
あまりに否定されてしまうので何を言っていいかわからず黙ってしまう。
45分間、最初から最後まで、ずっと黙っていても、カウンセラーは何を促すこともなく、終了時間になると料金の領収書を切ってカウンセリングを終わらせた。
これではいけないと思い、話すことを事前に用意していくと、今度は「話すことを用意してきたわね。それじゃあカウンセリングの意味がない」と言われた。
打ちのめされ途方にくれた。
どうしていいかわからなかった。


ある時、起きられずに遅刻をした。
終了時間ギリギリにたどりついて、それを説明すると「ここに来たくなかったから起きられなかったんじゃないの」と言われた。
相変わらずのつっけんどんな口調で。
その台詞に当時の私はかなりショックを受けた。
カウンセリングをサボりたくて(私の意志で時間通りに)来なかったと言われたと思った。
その日、私はずるずると布団の中で寝ていた訳ではなく、夜寝て、起きたらお昼だったのだ。
薬を余分に飲んだ訳でもなく、自分でも全く起きられなかった原因がわからなかった。
カウンセリングが嫌で来なかった訳ではなかった。
なぜ、そういうきめつけをするんだろうと思った。
すぐ時間が来て、1万円を払って終了になった。


それから数回後、私の前に人のカウンセリングが遅れた。
前の人が女子高生だったのを今も覚えている。
15分過ぎて呼ばれて予定時間に終了した。15分少ないカウンセリングだったにも関わらず料金は1万円取られた。
カウンセラーの都合で遅れたのに?
なぜ?
私の時は容赦なく打ち切ったのに。
そして、しばらくしてカウンセラーの都合でカウンセリングが2回分休みになった。
ほっとする気持ちがあった。
再開したカウンセリングで、私はカウンセラーの指に結婚指輪を見つけた。
カウンセリングは結婚式や新婚旅行で休みになったんだろう。
何をしても話しても否定をされるカウンセリングが続く。
そのうちカウンセラーのお腹が膨らんできた。
否定され続ける日々。
日に日に膨らむカウンセラーのお腹。


私はカウンセリングをやめることを申し出た。


当時は1万円のカウンセリング料金が負担に思えてきたからと自分に納得させた。
それ以外にカウンセリングが嫌だという言う理由をうまく自分の中でも解釈できていなかった。
今ならわかる。
当時20代でまだまだ結婚に憧れもあった。幸せの象徴だった。
「否定され続ける自分」と「幸せの象徴の妊娠」の差に耐えられなかったんだと思う。


数年後にまたカウンセリングを受けたけれど、その先生は暖かく優しく励ましてくれる先生だった。
私が授業で習った通りのカウンセリングだった。
偉いね、がんばってるね。もうちょっといい方に考えると幸せになれるよ、と笑顔で接してくれる先生だった。
カウンセリングにも流派があるんだろうかとも思うが、心理学については選択授業の一環で習っただけなので、詳しくはわからない。
でも、他の人には10年前のカウンセラーは勧めたくないし、他の人に10年前のカウンセラーのような態度を取ろうとも思わない。